マンションを購入するには、初めから不動産屋まかせにせず、ある程度不動産に関する知識を身につけたうえで、いろいろな物件を実際に見学してみることが大事だ。
知り合いの娘さん夫婦が分譲マンションを探しているという。
最近モデルルームを見学したらしい。
娘さん夫婦は二年前に結婚して共働き、子どもはまだいない。
賃貸マンションに暮らしていて、ともに30代前半である。
私は知り合いに次のようなアドバイスをすることにした。
モデルルームを見学する前に知っておきたいこと
分譲マンションの購入を考える場合はまず、希望するエリア、予算、広さを決めてから次にどのような条件を優先するか、明確にしていくのがいい。
生活環境を重視するか、通勤などの利便性をとるか。駅近で買い物等の便利な場所を希望すると予算、広さが限られてくる。
逆に少々駅から離れて、近くにスーパー等がなく若干不便な所は、価格が安くて広いマンションが手に入る。
まずはこの辺のところを明確にしてから物件選びを考えてみるのがいい。
マンションは資産価値だけで決めることはできない。
家族が一緒に生活し、幸せに暮らすための場所という本来の目的を念頭に置いて選ばなければならない。
将来的には家族構成も変わってくるので間取りも先をみすえて決めたい。
希望するエリア、予算、広さが決まったら、次はその希望する条件に合いそうなマンションの資料を入手する。
そして実際にモデルルームを見てみることだ。
ネット上で探したり、調べたりするのもいいが様々な情報が氾濫しているので、無責任な口コミはあまり気にしないほうがいい。
実際に見てみないとわからないものだ。
モデルルームを見学することでマンションの最新設備やサービスを知ることができる。
新しいマンションではどのような暮らしが待っているのだろうかと考えると、モデルルームを見るだけで新生活での夢が膨らむものだ。
ただし、モデルルームは専門家がコーディネートした高級ブランドの家具や照明器具が設置されている場合が多い。
リビングルームに置かれた豪華でおしゃれな応接セットやインテリアから伝わってくるイメージに惑わされないようにしたい。
本来の購入物件であるマンションには、実際には何もついていないマンションだと頭の中ではわかっているつもりでも、感情的には全てが設備されているように錯覚してしまう。
モデルルームは照明をすべて点灯して室内を明るく見せる工夫をしている。
実際は、南向きのベランダなら他の部屋はともかく、玄関はたいてい北向きなので、照明を点けなければ真っ暗という場合もある。
間取り図を確認する
間取り図を確認するときには該当するマンションの住戸(じゅうこ・住居としての一戸一戸のこと)だけでなく、上下左右の住戸の間取りも確認しておかなければならない。
例えば該当する住戸の寝室の上が、リビングだったり、隣の住戸の水回りが近くにあったりすると騒音に悩まされることもある。
実際に入居し住み始めてみると思っていたイメージと違うと気づいても遅い。
また、建設地周辺の施設や環境を調べることも大事だ。
設計図書(せっけいとしょ)を見る
必ず「設計図書」を見せてもらうようにしたい。
設計図書とは「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」が公布され、2001年8月以降に不動産会社がマンションを分譲した場合は管理組合の管理者等へ11種類の図書を交付するように義務付けられている。
11種類の図書というのは完了検査に用いた以下のものである。
- 付近見取り図
- 配置図
- 仕様書(仕上げ表を含む)
- 各階平面図
- 2面以上の立面図
- 断面図または矩形図
- 基礎伏図
- 各階床伏図
- 小屋伏図
- 構造詳細図
- 構造計算書
なお、国土交通省は2020年にもこの「マンション管理適正化法」を改正して、22年度から順次、地方自治体が管理状況のよくないマンションを指導できるようにしている。
管理の状況はマンションの資産価値に影響する。
管理の善し悪しは中古マンションの価格に反映される。
設計図書(せっけいとしょ)はある程度建築の知識がなければ、見ても理解できないが、営業マンや設計の担当者が手に取って素人でもわかるように説明することはできるはずだ。
そもそも設計図書すら置いていないという場合は、その不動産会社が建物の構造を説明する気もないということだから論外である。
矩形図
設計図書の中には「矩形図」(かなばかりず、またはくけいずと読む)がある。
矩計図は各階の垂直方向の寸法と仕様が書かれている詳細な断面図だ。
この図面には「階高」が書かれている。
階高とは各階のコンクリートの床から上の階の床までの高さのことでこの階高が大きいほど高級マンションということになる。
最近の、全国の新築マンションの平均階高は3メートル以上ある。
階高は「天井高」とは違う。天井高というのは、室内の床面から天井面までの高さで、実際にはその裏側にコンクリートの床や天井があるわけだ。
そこで売主の不動産業者は例えば、階高を15センチずつ低くすれば20階建てで1階分増えて21階にすることができる。
このようにコストを切り詰めてその分、販売価格を安く抑えるのはいいのだが、不動産会社の利益だけを考えた価格不相応のマンションであれば要注意である。
階高は変更できないが、天井高は、例えば階高が3メートルあればその範囲内であればある程度変更できる。
中古マンション
中古マンションにもたくさんの魅力がある。
新築マンションの価格は土地の価格と建物の建設費それに加えて不動産会社の販売経費と利益がのっている。
一方で中古マンションの場合は主に需要と供給のバランス、周辺の売買事例で価格が決まる。
また、中古マンションは新築マンションと違って、購入する部屋を直接見学することができるというメリットがある。
実際に住む部屋の状態、日当たりや通風、騒音、悪臭の有無などを確かめることもできる。
また、そのマンションの住人や管理人のマナーなどもわかる。
リフォームされた中古マンションもあるが、現状のままで買う場合でも、入居するまでにリフォームすることもできる。
2001年8月以降は中古マンションでも設計図書があるはずなので、確認するようにしたいものだ。
2001年8月以前に建てられたマンションは設計図書を保管する義務はないが、管理組合などが保管している場合もある。
資産価値
マンションを選ぶときは、資産価値があるかどうかという判断もしておかなければならない。
売却しなければならないような事情がいつ起こるとも知れないし、あるいはしばらくの間、転勤か何かで空き家にしなければならないこともあり得る。
こういった場合の売れる価格、あるいは他人に貸した場合の家賃の相場なども考慮しておくことも必要だ。
営業マンとの付き合い方
営業マンにいろいろと質問してその意見を参考にするのはいいが、説明をうのみにしてはいけない。
確かに優秀な営業マンはこちらの立場に立ってアドバイスをしてくれるが、それはあくまで物件を購入してもらうという思惑が前提にある。
営業マンは売るために都合の良いことばかりを説明するとまでは言わないが、あくまで売ることが目的だ。
営業マンの説明は参考程度にしておいて、気になること、大切なことは自分の目で確かめたり調べたりすべきだ。
ただ、自分たちにぴったりと思われる物件が見つかっても、大きな買い物なのでどうしようかと迷ってしまうこともある。
こういう時に自分たちの背中をそっと押しくれる営業マンというのは心強いし、頼りになるものだ。
優秀な営業マンはこのタイミングを見計らって、一言の決め台詞で購入を決断させることがある。
こういう営業マンは後々、不思議と購入者から感謝されるものだ。
こういう営業マンは言葉巧みに買わせるというのではなく、見込み客が8割、9割がた購入を決めているときに、そっと背中を押してくれる。
客のほうもそういう自分たちの背中を押してくれる営業マンを必要としているのかもしれない。
都市部ではマンションの価格高騰が続いている
都市部の新築マンションは売れ行きが好調のようだが、物件間には格差があり価格が大幅に下落した物件もあれば全く売れない物件もある。
都市部でマンション価格の高騰が続いているのは大手不動産業者の寡占化が背景にあるようだ。
メジャーセブンと呼ばれる住友不動産、大京、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスの7社が日本のマンションの発売戸数全体の半分近くを占めている。
こういった大手不動産業者はブランド価値を大事にして売れなくても価格を下げないからである。
国土交通省の発表している不動産価格指数によると全国のマンションの平均取引価格はここ10年で1.5倍になっている(令和3年1月28日公表)。
これはコロナ禍の前に、外国人訪日客の異様な増加でホテル建設用地の争奪戦が起こり、マンション用地の確保が困難になったからである。
戸建住宅の価格が横ばいなのに比べるとマンション価格の高騰は異様である。
訪日外国人でごった返していた都心部や観光地がコロナ禍で一転してしまった。
そういった影響がマンション価格の高騰にも反映しているのだろう。
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